展示会に於けるドイツの職人気質(タンデムの大賀氏による寄稿)

今回はドイツの現場代表、ドイツ人、トルコ人、ポーランド人との繋がりを通じ学んだ、ドイツの展示会に於ける施工会社の職人気質を語りたいと思います。

ドイツ人と接するようになって早や40年、そして海外見本市施工を生業として30余年(ドイツでの仕事が約五割)、その間何人ものドイツ人、ガストアルバイター(出稼ぎ労働者)と仲間意識を持ち一緒に働き、いろいろと経験を積んで参りました。

ドイツは戦後の経済復興で労働力を得るため、まずは50年代にスペイン、ポルトガル、イタリアからの移民流入に頼り、引き続きトルコから労働力を確保しました。60年代になりトルコからの移民が他国を引き離し、現在ではトルコからの労働者の二世、三世もドイツで暮らしている人が多い為、移民のうち約1/4がトルコ人です(現在はドイツ人口の約2割弱が移民、すなわちドイツでトルコ人の占める割合は5%弱)。彼らは当然のことながら彼らの価値観がベースにあります。されど、郷に入れば郷に従えのたとえ通りドイツ人と同じメンタリティを合わせ持つようになり、トルコ人もドイツの職人流儀で働いているのが殆どです。他に忘れてはならない外国人の現場での代表選手はポーランド人。EU統合で労働市場で自由にポーランド人が働けるようになり増えましたが、彼らは総じて非常に真面目です。

30余年前、私が海外見本市を生業とし始めた頃、丁度オクタノルムシステムがドイツで普及し始めた頃で、それ迄は職人気質のマイスターがプライドを持って働いていましたがシステムの普及により、素人が現場で働き易くなり、外国人が随分増えました。そして職場で鍛えられ、勤続年数を重ねるとドイツ人気質が身に付きます。怠け者はいつの間にか他の仕事を見つけ去っていきます。

現場では彼らは一所懸命、いい仕事をしますが、他の国の職人と比べ、良くも悪くもとにかく頑固で融通がききません。一部の日本からのご出展者からみるととんでもない職人です。例えば、送った最終図面からの変更が現場であった時、他国では“仕方ない”とは思いつつ出来る事はやってくれます。アジアでは追加費用が発生するので喜んでやってくれる国もあります。ところがドイツでは“何で2,3ヶ月にも渡り打ち合わせして決めたことなのに現場で変更が発生するの?”との返事が来ることもあります。日本では“お客様は神様”と言われていますが(言われていましたが)、ドイツの諺では“お客様は王様”。格下です。でも実際は対等の立場で仕事をしています。ですから理不尽な要求には断固として”ナイン(No)!“。何せ誇りを持って働いているのですから。


しかし、総じて現場の職人は日本からいらしたご出展者からみて非常に評価が高いです。ご出展者はあまり他のドイツ人とそしてドイツにおける外国人と接する機会を持てない為、現場職人の仕事ぶりをみて、ドイツ人の代表ととらえ、「流石ドイツ人、真面目なドイツ人、いい仕事をする!」と驚嘆されることが多いですが、私は「いいえ、彼らは選ばれたドイツ人、外国人労働者です。」と説明します。ドイツでは労働時間は少なく(一般に週35-40時間)、土日は当然休み、休暇も年に一ヶ月位取ります。それに比し、職人は月月火水木金金、徹夜で働くこともあり(ドイツの多くの会場では24時間体制で仕事ができます)、ひとつの現場が終わればその日の夜次の現場に向かい、翌朝からまた新たなる会場で働く等厳しい環境。オフシーズンである夏には2か月位休む職人もいますが。その環境に耐えうる人間が現場に残るのです。

戦前、そして戦後の経済復興期のドイツ人は大多数が、今日の現場の職人のように実直に、一所懸命働いてきました。今日のドイツは物質的には裕福になりましたが、いろいろと失った物も多く非常に寂しい限りです。