Cventは現在、イベントの登録、集客、会場検索、チェックイン、バッジ発行、モバイルアプリ、出展者管理、商談設定、リード取得、バーチャルイベント、ウェビナー、ホテル・会場へのRFP、データ分析までを扱うイベント・ホスピタリティテクノロジー企業である。
2026年時点で同社は、世界で3万4,000以上の顧客を持ち、Cvent上で管理されたイベントは累計800万件以上としている。会場検索を担うCvent Supplier Networkには約34万のホテル・会場が掲載され、イベント主催者だけではなく、ホテル、コンベンション施設、出展企業、マーケティング部門までを一つのプラットフォームに取り込んでいる。
さらに現在は、AI基盤「CventIQ」を中心に、イベントで発生する参加者データを営業・マーケティングへつなげる方向を強めている。2025年にはGoldcast、2026年にはON24を買収し、従来のリアルイベント管理だけでなく、ウェビナーや動画コンテンツ、デジタルエンゲージメントまで事業範囲を広げた。
しかしCventの原点は、現在のような巨大なイベントプラットフォームではない。
1999年に始まったのは、イベント参加登録という比較的限定された業務をオンライン化するソフトウェアだった。
イベント登録
↓
会場検索
↓
ホテルと主催者を結ぶマーケットプレイス
↓
モバイル・現地運営
↓
リアル・バーチャル・ハイブリッドイベント
↓
展示会リード・商談管理
↓
ウェビナー・コンテンツ
↓
AIを使ったイベントデータ基盤
と事業領域を広げてきた。
現在のCventを理解するには、この「イベントの一工程をデジタル化する会社」から「イベントで発生するほぼすべてのデータを扱う会社」への変化を見ることが重要である。
Cventは1999年に設立された。
米国証券取引委員会(SEC)への上場申請資料によると、Cvent, Inc.は1999年8月20日にデラウェア州法人として設立されている。その後、ワシントンD.C.近郊のバージニア州北部を主要拠点として成長した。
創業者で現在もCEOを務めるReggie Aggarwalは、もともと弁護士だった。
Cventによれば、Aggarwalが創業した目的は、ビジネスコミュニティで行われる会議やイベントの企画をより容易にすることだった。当時のイベント運営では、参加者リスト、招待、出欠確認などをスプレッドシート、電話、メールなどで管理するケースが多かった。
SEC資料は、創業当初のCventを明確に、
「event registration softwareのプロバイダー」
と説明している。
つまり最初に解決しようとした課題は、展示会全体の運営ではない。
「誰を招待したのか」「誰が参加するのか」「参加者情報をどう管理するのか」というイベント受付業務だった。
この部分は、現在のCventにもそのまま残っている。
現在のCvent Registrationも、参加申込だけでなく、イベントサイト、参加者情報、メール、セグメント管理などの入口として機能しており、創業時の「参加者情報をイベント運営の中心に置く」という構造は変わっていない。
ただし、創業直後から順調だったわけではない。
2000~2002年のIT業界の急激な景気後退でCventは経営上の厳しい状況を経験した。SECへの2013年の上場申請書でも、この期間について「substantial austerity」を経験したと記載している。
現在につながる重要な点は、その後Cventがイベント登録だけにとどまらず、イベントを取り巻く別の大きな非効率へ対象を広げたことである。
それが「会場探し」だった。
現在のCventを形成した最初の大きな転換点は、2008年に始まったCvent Supplier Network(CSN)である。
イベント主催者にとって、参加者登録と同じくらい手間がかかるのがホテルや会場探しである。
従来は候補施設を一つずつ探し、電話やメールで空室、宴会場、料金などを確認し、複数の提案を比較する必要があった。
Cventはこれをオンラインマーケットプレイス化した。
イベント主催者が条件を入力し、複数のホテルや会場へRFP(提案依頼書)を送り、回答を比較できるCvent Supplier Networkを構築したのである。
SEC資料によれば、CSN経由で送られたRFPは2008年の約1万2,000件から、2012年には約110万件まで拡大した。2012年時点ですでに20万以上のホテル・会場が掲載されていた。
この事業が重要なのは、単に機能が一つ増えたからではない。
Cventの顧客構造そのものが変わったからである。
イベント主催者 → Cvent
という関係から、
イベント主催者 → Cvent → ホテル・会場
という市場になった。
主催者が増えればホテル側にとってCvent経由の商談機会が増える。
ホテルが増えれば主催者にとって会場検索サービスの価値が上がる。
このネットワーク効果は、Cventが現在も持つ大きな事業資産の一つである。
2012年時点でSupplier Network関連の広告・マーケティングソリューションはCvent売上高の約30%を占めるまで成長していた。
現在では掲載されるホテル・会場は約34万まで拡大している。
つまり現在Cventが「Event Technology」と同時に「Hospitality Technology」を主要事業としている背景には、2008年に始まったこの事業転換がある。
次にCventが進んだのは、イベント前の準備だけではなく「イベント当日」への進出だった。
象徴的なのが2012年のCrowdCompass買収である。
CrowdCompassは、カンファレンスや展示会向けのモバイルアプリを開発していた企業で、参加者がスマートフォンからプログラム、登壇者情報、会場情報などを確認したり、参加者同士で交流したりできる仕組みを持っていた。
それまでCventが扱っていた中心領域は、
というイベント前の業務だった。
モバイルアプリを持つことで、
というイベント当日の体験まで扱えるようになった。
2013年にはCventがニューヨーク証券取引所へ上場し、上場時の時価総額は10億ドルを超えた。
この段階ですでに同社は、イベント管理、Strategic Meetings Management、モバイルアプリ、アンケート、チケット販売、Supplier Networkという複数の製品群を持つクラウド型イベント管理会社になっていた。
現在のCventの「イベントライフサイクル全体を一つのプラットフォームで扱う」という考え方の原型は、この時期までに形成されていたと言える。
Cventの歴史でも特に重要な転換点が2016年である。
Vista Equity PartnersはCventを約16億5,000万ドルで買収し、非公開企業化した。
そしてVistaがすでに保有していたイベント・ホテルテクノロジー企業LanyonとCventを統合した。統合後もCventブランドが残り、Reggie AggarwalがCEOを務めた。
この出来事は単なる株主変更ではない。
Lanyonも企業の会議・イベント、ホテル、旅行関連のクラウドソフトウェアを持っていたため、統合後のCventは、
イベント主催者向けソフト
と、
ホテル・会場向けソフト
をさらに深く組み合わせることが可能になった。
Cventが2021年の再上場に向けて提出した資料では、Lanyon統合について、重複製品を整理し、両社の技術チームをまとめ、新しい統合プラットフォームを構築したと説明している。
この統合作業が重要なのは、現在のCventが多数の買収企業を抱えながらも「一つのイベントプラットフォーム」を重視している背景がここにあるからだ。
2016年当時、Cventはすでに事業を大きく、
Event Cloud
と、
Hospitality Cloud
として捉えていた。
主催者がイベントを開催するためのソフトと、ホテル・会場がそのイベント需要を獲得するためのソフトを同じ企業が持つ構造である。
これは現在まで続くCventの事業モデルの基本形となっている。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大は、Cventにも大きな事業転換を迫った。
Cventはもともとリアルイベント、会議、ホテル・会場との結び付きが強い企業だった。
しかし、世界中で展示会やカンファレンスが中止されると、イベント主催者にはオンライン開催の仕組みが必要になった。
Cventはそこで「Virtual Attendee Hub」を開発した。
Cvent自身によれば、2020年には6万件以上のバーチャルイベントを顧客が実施しており、同年のCvent CONNECTもVirtual Attendee Hubを使ってオンライン開催した。
これはCventにとって非常に大きな意味を持った。
それまでは、
リアルイベントの準備・運営をデジタル化する会社
という色彩が強かった。
コロナ禍以降は、
を同じデータ基盤で管理する会社へ変化したのである。
Cventはこの考えを「Total Event Program」と表現するようになり、イベント形式ごとに別々のシステムを使うのではなく、一つのSystem of Recordで参加者やエンゲージメントデータを管理する考え方を強めた。
2021年12月にはDragoneer Growth Opportunities Corp. IIとの企業結合を通じてNASDAQへ再上場した。
そして2023年6月にはBlackstoneによる約46億ドルの買収が完了し、Cventは再び非公開企業となった。ADIAとVista Equity Partnersも取引に参加している。
この二度の上場と二度の非公開化は、Cventの製品そのものを直接説明する出来事ではない。
しかし、その後の積極的なM&Aを見ると、大規模な資本を活用しながらイベント周辺の専門機能を取り込み、「総合イベント基盤」を拡張する戦略が続いていることが分かる。
Blackstone傘下となった後の買収を見ると、Cventが現在どこを重視しているかが明確になる。
2024年1月、CventはJifflenowとiCaptureを買収した。
Jifflenowは展示会やカンファレンスでのBtoB商談予約・スケジュール管理サービス。
iCaptureは展示会ブースでのリード取得・評価サービスである。
この買収は、Cventの歴史の中でも展示会関係者にとって特に重要である。
従来のCventは主催者側から、
参加登録
↓
チェックイン
↓
セッション参加
↓
アンケート
などを計測するサービスを発展させてきた。
JifflenowとiCaptureによって、
まで扱うようになった。
つまり展示会を、
「人を集めるイベント」
から、
「営業パイプラインを生むマーケティング活動」
として計測する領域へ踏み込んだのである。
現在のCvent Trade Show Solutionsでも、iCaptureによるリード取得、Jifflenowによる商談予約、Salesforce、Marketo、HubSpot、Eloquaなどへのデータ連携を中心機能としている。
さらに2024年にはRepositeを買収した。
Repositeはホテル以外の交通、飲食、エンターテインメント、人材、ギフトなどのイベント関連事業者を検索・比較するサービスである。
これは2008年のSupplier Networkの延長として見ると分かりやすい。
かつて、
ホテル・会場を探すマーケットプレイス
だったものを、
イベントに必要なさまざまな事業者を探すマーケットプレイス
へ拡張している。
同年にはSplashも買収し、小規模で繰り返し開催されるフィールドマーケティングイベント領域を強化した。
Cventが現在狙っているのは、大規模カンファレンスだけではない。
展示会、ウェビナー、顧客イベント、地域イベント、フィールドイベントなど、企業が年間を通じて行うイベント全体である。
2025年から2026年にかけて、さらに重要な変化が起きた。
2025年12月、CventはBtoBウェビナー・動画コンテンツプラットフォームのGoldcastを買収した。
Goldcastの特徴は、ウェビナーやイベント映像からAIを使って動画クリップ、要約、SNSコンテンツなどを生成し、イベント終了後もマーケティング素材として利用できることである。
続いて2026年4月にはON24の買収を完了した。
ON24は大企業向けウェビナー、デジタルイベント、ファーストパーティ・エンゲージメントデータ、パーソナライゼーションなどに強みを持つ企業である。買収契約時の取引額は約4億ドルだった。
この二つの買収によってCventの事業はさらに変わった。
従来は、
イベントを企画する
↓
参加登録を受け付ける
↓
イベントを開催する
↓
参加者データを分析する
という流れだった。
現在は、
イベントを企画する
↓
開催する
↓
参加者の関心をデータ化する
↓
映像・講演内容をAIでコンテンツ化する
↓
営業・マーケティングへ戻す
↓
次のイベントへつなげる
という循環型の仕組みになりつつある。
Cventが現在使う「event-led growth」という考え方は、この変化を表している。
イベントそのものを目的とするのではなく、イベントを継続的な顧客獲得・関係構築チャネルとして扱う考え方である。
現在Cventが重点的に投資しているのがAIである。
その中核が「CventIQ」である。
2026年7月のCvent CONNECTで、同社は今後数年間に製品開発へ10億ドル以上を投資する計画を発表し、70以上の製品機能と34の新しいAI機能を紹介した。
重要なのは、CventIQが単純な文章生成AIとして位置づけられていないことである。
Cventによれば、直近12カ月だけでも同社プラットフォームでは127億件の参加者インタラクションが処理されている。
このイベントデータと各企業のイベント情報をAIに与えることで、
などを支援する方向へ進んでいる。
ここにはCventの25年以上の歴史が直接つながっている。
創業時に取得し始めた、
参加者登録データ
に、Supplier Networkの、
会場・RFPデータ
が加わり、モバイルアプリやAttendee Hubによる、
参加者行動データ
が加わり、iCaptureとJifflenowによる、
リード・商談データ
が加わった。
さらにON24やGoldcastから、
ウェビナー視聴・デジタルエンゲージメント・コンテンツデータ
が加わる。
現在CventがAIへ投資できる背景には、こうしたイベントライフサイクル全体のデータを長年集積してきたことがある。
Cventは自社の大型イベント「Cvent CONNECT」で製品を継続的に公開している。
Cvent CONNECTにはカンファレンスだけでなくTrade Showも設けられ、イベントテクノロジー、ホテル、会場、関連サービス企業が出展する。2026年のCONNECTでは約5,000人が現地参加し、CventはAIを中心とした新機能を多数公開した。
また、IMEX FrankfurtでもCventの出展が確認できる。2024年にはCventのブースでプラットフォームツアーや、Supplier Network、AI、イベントROIなどをテーマとしたセッションが実施されていた。2026年のCvent Top Meeting Destinations/HotelsもIMEX Frankfurtで発表されている。
展示会関係者が現在のCventを見る場合、単純な「イベント受付ソフト」として見ると本質を見落とす。
特に確認したいのは次のような機能である。
ブース来訪者の情報を取得し、質問項目、メモ、関心商品などを記録しながらリードを評価する。
現在はAIを使った文字起こし、企業情報の付加、営業向けサマリー作成などへの拡張も進められている。
展示会前から重要顧客との商談を予約し、営業担当者や専門担当者を割り当て、当日の面談結果まで管理する。
「偶然ブースに来てもらう」だけではなく、展示会を計画的なBtoB商談機会として管理する仕組みである。
来場受付、QRコードチェックイン、バッジ印刷、セッション入退場などをデータ化する。
これによって主催者は単なる総来場者数ではなく、誰がどのエリアやセッションを利用したかまで分析できる。
展示会で取得した参加者、商談、ブース訪問、セッション参加などのデータをAIで分析し、次のアクションへつなげる。
2026年に発表された機能には、参加者に適した出展企業を推薦する機能や、ブース商談後のフォローアップ文章を生成する仕組みも含まれている。
こうして見ると、現在のCventが展示会で提供しようとしている価値は、
「展示会を運営すること」
そのものから、
「展示会で発生するすべての接点を計測し、営業成果につなげること」
へ変化している。
Cventだけがイベント業界をデジタル化したわけではない。
オンライン登録、イベントアプリ、リード取得、ウェビナーなど、それぞれの市場には多数の企業が存在する。
一方、Cventの変遷にはイベント業界全体のデジタル化を理解するうえで重要な三つの変化が表れている。
1999年当時、イベント運営はスプレッドシート、メール、電話などの個別作業で構成されることが多かった。
Cventは登録、会場検索、アプリ、受付、リード取得などを順次オンライン化してきた。
その結果、イベントの前・当日・後を同じ参加者データでつなぐ考え方が強まった。
Supplier Networkは特に業界構造への影響が大きい。
主催者がホテルへ一件ずつ問い合わせるのではなく、標準化されたRFPを複数施設へ送る仕組みを大規模化した。
2008年に約1万2,000件だったRFPが2012年には約110万件に増加していたことからも、このモデルが短期間に利用を拡大したことが分かる。
現在ではホテルだけでなく、Repositeによってイベント関連ベンダーにも同じ考え方が広がっている。
展示会では長年、
「何人来場したか」「何枚名刺を集めたか」
が主要な指標になりやすかった。
現在のCventは、
までCRMと結び付けようとしている。
これはイベントテクノロジーが単なる運営効率化ツールから、マーケティング・営業基盤へ移りつつあることを示している。
2026年時点の取り組みを見る限り、今後のCventを見る際には三つのテーマが重要になる。
CventIQでは現在、AIによる分析や推薦だけではなく、AIエージェントがイベント作成や業務を実行する「CventIQ Skills」への展開が進められている。
CventはSalesforce Agentforce、Claudeなど外部のAI環境からイベント業務を実行できる仕組みも発表している。
今後の注目点は、イベント担当者が画面上で一つずつ操作するモデルから、
「この条件で展示会を作成してほしい」
とAIへ指示し、登録ページ、メール、承認、データ処理などを自動的に構築するモデルへどこまで移行するかである。
Cventはこれまでリアルイベントに強い企業だった。
一方、GoldcastとON24の買収によって、
が加わった。
2026年のCvent CONNECTでも、GoldcastとON24をデジタルイベント戦略の主要要素として位置づけている。
今後はリアル展示会への来場履歴と、その後のウェビナー視聴やコンテンツ閲覧を同じ顧客データとして扱えるかが重要になる。
Cventの歴史を振り返ると、一貫しているのはイベント業務の対象範囲を広げ続けてきたことである。
1999年には、
参加登録
だった。
2008年には、
会場選定
が加わった。
その後、
モバイル
チェックイン
参加者エンゲージメント
バーチャルイベント
展示会リード
商談
フィールドイベント
ウェビナー
AI
へ広がった。
現在のCventが目指しているのは、そのすべてを企業のマーケティング・営業成果へ結び付けることである。
その意味で、Cventの約27年間の変遷は、
「イベント業務を効率化するソフトウェア」
から、
「イベントを企業活動のデータ基盤として扱うプラットフォーム」
への変化として捉えることができる。
現在展示会でCventの技術を見る際にも、個々の受付端末やアプリだけを見るのでは十分ではない。
来場登録、ブース訪問、商談、セッション参加、ウェビナー視聴、コンテンツ閲覧といった異なる接点を、一人の顧客の行動としてどこまでつなぎ、それを次の営業活動へ変換できるのか。
そこに注目すると、Cventが1999年のオンライン登録ソフトから現在のAI型イベントプラットフォームへ変化してきた意味が最も分かりやすくなる。