Reed Exhibitionsは、世界各地でBtoB展示会やカンファレンスを展開してきた英国系の国際展示会主催会社である。
ただし、現在「Reed Exhibitions」というブランドは原則として使われていない。2021年、同社は社名ブランドを「RX」へ変更した。英国の法人Reed Exhibitions Limited自体は現在も存続しているが、事業上はRXとして展開している。
2026年現在のRXは、約350のイベントを25カ国、約41の産業分野で展開する。親会社は、情報・分析サービス企業RELXである。2025年のRELX Exhibitions部門、すなわちRXの売上高は11億8,600万ポンドで、世界に約3,400人の従業員を持つ。
現在のRXを見ると、単に展示スペースを販売する会社ではない。
イベント登録、出展企業検索、AIによる推薦、商談マッチング、QRコードによる資料取得、リード獲得、出展成果分析などを自社のグローバルなデジタル基盤へ組み込み、「誰と誰を会わせるか」「展示会でどのような商談が生まれたか」までを扱う企業へ変化している。
この変化を整理すると、
展示会の企画・会場運営
↓
専門展示会ブランドの国際展開
↓
M&Aによる世界規模のポートフォリオ形成
↓
オンラインディレクトリ・マッチング
↓
コロナ禍によるデジタル化加速
↓
Reed ExhibitionsからRXへ
↓
来場者データ・リード・AIを使ったビジネスマッチング
という流れが見えてくる。
現在RXがAIやデータを展示会へ組み込んでいる背景には、60年以上にわたり世界各地の専門産業で「売り手と買い手を集める」ことを事業としてきた歴史がある。
現在のReed Exhibitions Limitedにつながる法人は、英国Companies Houseによると1960年12月21日に設立された。
英国知的財産庁の過去の商標審決資料では、当初の社名は「Bridges Exhibitions Limited」だったことが確認できる。
1963年には「Industrial and Trade Fairs Holdings Limited」へ名称を変更した。
この名称が示すように、当時の中心事業は産業見本市やトレードフェアである。
現在のRXのようにAIやデジタルマーケティングを提供する会社ではなく、企業が商品や技術を展示し、業界関係者やバイヤーと直接会うための場をつくることが事業の基本だった。
その後、英国の出版・情報企業Reed Internationalのグループ会社が同社株式の40%を取得し、1983年には残る60%も取得した。
ここがReed Exhibitionsにつながる重要な転換点である。
地域の展示会事業が、出版・専門情報を世界で展開するReedグループの中に入ったことで、展示会ブランドを複数の国・地域へ展開するための基盤が形成された。
1987年には社名を「The Reed Exhibition Companies Limited」へ変更。2002年には現在の法人名である「Reed Exhibitions Limited」となった。
つまりReed Exhibitionsには特定の一人を「現在の会社の創業者」と呼ぶより、1960年設立の展示会会社をReedグループが段階的に取得し、国際展示会事業へ成長させたという歴史がある。
Reed Exhibitionsを現在の姿へ近づけた最初の大きな変化が、1980年代以降の国際展開である。
日本では1986年8月にReed Exhibitions Japanが設立された。
1987年にはNEPCON JAPANの運営を開始し、その後、International Jewellery Tokyo、Manufacturing World Japan、Japan IT Weekなど、日本の製造業、IT、宝飾などを対象とする専門展示会を相次いで展開した。
現在のRX Japanが運営する多数の専門展示会は、この時期から形成されたポートフォリオの延長線上にある。
欧州でも重要な動きがあった。
1989年前後には、音楽業界の国際見本市MIDEMなどを運営していたフランスのイベント事業を取得した。
当時のMIDEM関連事業にはMIDEM、MIPTV、MIPCOMなどがあり、その後MIPIMやMAPICなどへブランドが拡張された。
ここでReed Exhibitionsが獲得したのは、単なるイベント運営技術ではない。
特定産業の主要企業や意思決定者が毎年集まる「展示会ブランド」そのものだった。
展示会事業では、会場を借りること自体は競争力になりにくい。
重要なのは、
というネットワークである。
Reed Exhibitionsは各国の展示会ブランドを取得・育成することで、こうした業界コミュニティを事業資産として積み上げていった。
Reed Exhibitionsの世界的な規模を大きく変えた転換点の一つが2000年である。
親会社Reed Elsevierは同年、Miller Freeman Europeを3億6,000万ポンドで買収した。
Miller Freeman Europeはフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、北欧などで100以上の展示会を運営していた大手展示会会社だった。
買収発表時、Reed側は統合後に世界最大の展示会主催企業になるとしていた。
この買収によって、Reed Exhibitionsは建築、食品、ホスピタリティ、環境、製造など欧州の多数の専門市場へ一気にアクセスできるようになった。
その後も同社は、成長市場の現地展示会会社との提携や買収を繰り返した。
例えばブラジルでは2007年にAlcantara Machadoとの合弁を開始し、2012年には完全子会社化した。Equipotelなどを加え、ブラジルのホテル、物流、二輪車、建設など複数の展示会市場へ進出した。
中国をはじめアジアでも同様に事業を広げ、日本、シンガポール、タイ、中国などに大規模な運営基盤を形成していった。
この時期に特徴的だった戦略が、成功した展示会ブランドを別の国へ展開する、いわゆる「geo-cloning」である。
例えば、ある国で成立した専門展示会を、そのブランドや顧客ネットワークを活用しながら米国、中国、インド、メキシコ、東南アジアなどへ展開する。
これによって出展企業側も、同じ主催者が持つ複数地域の展示会を利用して海外市場へ進出できるようになった。
2019年にはMack Brooks Exhibitionsを買収した。
Mack Brooksは1965年設立の英国展示会会社で、EuroBLECH、Fastener Fair、inter airport、Chemspec、RAILTEXなど、製造・産業分野を中心に30以上のBtoB展示会を14カ国で運営していた。
この買収は、現在のRXが製造、金属加工、鉄道、空港設備、化学などの専門BtoB市場で強いイベントブランドを持つ背景の一つになっている。
事業拡大は産業展示会だけではなかった。
2006年には「ReedPop」を立ち上げ、最初のNew York Comic Conを開催した。
ReedPopはその後、PAX、MCM Comic Con、Star Wars Celebrationなどを手掛け、BtoBの商談型展示会とは異なる「ファンコミュニティを形成するイベント」へ事業を広げた。
この変化も現在のRXを理解するうえで重要である。
展示会主催者の役割が、単に商品を並べる場所を提供するだけでなく、
特定の産業や趣味を中心とするコミュニティを形成し、その参加者が繰り返し集まる場所を運営すること
へ広がったからである。
2010年代後半になると、Reed Exhibitionsは展示会のデジタル化を本格化させる。
2017年のRELX資料によると、当時のReed Exhibitionsの売上高の約96%は依然としてリアルイベントから生まれていた。
一方で同社はすでに、オンライン出展者ディレクトリ、モバイルアプリ、来場者と出展企業のマッチングなどを導入し、展示会前後でも参加者同士をつなぐ仕組みを拡大していた。
この流れを一気に加速させたのが2020年の新型コロナウイルス感染拡大だった。
2019年に12億6,900万ポンドあったRELXのExhibitions部門の売上高は、2020年には3億6,200万ポンドまで減少した。
展示会部門は2019年に3億3,100万ポンドの調整後営業利益を上げていたが、2020年には1億6,400万ポンドの赤字となった。
リアルイベントへ依存する事業モデルのリスクが明確になった。
しかし同時に、Reed Exhibitionsは各イベントブランドを利用したオンラインイベントへ移行した。
2020年8月までに120以上のイベントがデジタルイベントやオンラインコンテンツを開始していた。
例えばArabian Travel Marketのオンライン版「ATM Virtual」では、152カ国から1万8,000人以上が参加し、1万4,000件以上の事前商談が設定された。
ここで重要なのは、Reed Exhibitionsが「リアル展示会を完全にオンラインへ置き換える」という方向へ進まなかったことである。
むしろ、
リアル展示会
+
オンラインコンテンツ
+
商談マッチング
+
参加者データ
を組み合わせる方向へ進んだ。
そして2021年6月、Reed Exhibitionsはブランド名を「RX」へ変更した。
RX自身は、この変更について、データとテクノロジーを活用し、展示会開催時だけではなく「all year-round communities」を形成する企業へ変化していることを反映したものだと説明している。
つまり「Exhibitions」という言葉を社名ブランドから外したこと自体が、事業転換を象徴している。
展示会を開催する会社
から、
リアルイベントを中心に、データとデジタル技術で年間を通じて企業を結び付ける会社
へ位置づけを変えたのである。
2026年現在、RXは約350のイベントを25カ国で開催し、約41の産業分野をカバーしている。
2025年のRELX Annual Reportによると、RXは世界で約3,400人を雇用し、売上高は11億8,600万ポンドだった。
現在の代表的なイベントブランドには、
などがある。
これらは対象業界が大きく異なる。
しかしRXにとって共通する資産は、各業界の出展企業、来場者、バイヤー、専門家が登録・参加することで形成されるオーディエンスである。
現在RXが強化している「Business Builder」は、その過去の展示会ネットワークをデジタル化したものと考えると分かりやすい。
出展企業が来場者のバッジをスマートフォンで読み取り、連絡先情報を取得する。
単に名刺情報を保存するだけでなく、メモや評価を追加し、展示会終了後に優先すべき見込み客を整理できる。
出展企業や製品をイベントWebサイト上に掲載し、展示会開催前から来場予定者に見つけてもらう。
従来、出展企業の露出は開催期間中のブースが中心だった。
デジタルプロフィールを持つことで、会期前から商品検索や企業検索を通じて接点を作れる。
獲得したリード、プロフィール閲覧、デジタルエンゲージメント、RXが提案したマッチング数などを一つの画面で確認する。
これによって展示会への出展成果を、感覚的な「ブースが混んでいた」という評価から、データで比較する方向へ変えている。
展示ブースにQRコードを配置し、来場者がスマートフォンで読み取ると製品資料などをデジタルで保存できる。
同時に、出展企業側にはリード情報が残る。
ブース担当者が別の商談中でも、来場者自身が情報を取得できるため、「話しかけられなかった来場者」をリード化できる点が特徴である。
こうした機能を見ると、RXのデジタル化は展示会をオンラインへ置き換えるためのものではないことが分かる。
リアル会場で発生する出会いを、できるだけ多く記録し、商談へ変換することが中心にある。
これは、1960年代から続いてきた「買い手と売り手を同じ場所へ集める」というReed Exhibitionsの事業を、データ化したものと見ることができる。
RXの場合、「RX自身の展示ブースを見る」ことより、RXが主催する展示会に組み込まれている仕組みを見る方が、現在の事業を理解しやすい。
特に2026年に注目されるのが「RX NOW」である。
RX NOWは、来場者がスマートフォンから利用するWebベースのイベント支援サービスである。
2026年1月のPGA Showで初めて導入され、3万4,000人以上の来場者のうち半数以上が利用した。
利用者は、
ことができる。
さらに、会場内で行ったQRスキャンや保存したコンテンツなどが「event timeline」として残る。
展示会終了後には、自分が関心を持った企業や情報をまとめて確認できる。
これは従来の展示会ガイドブックをスマートフォン化しただけではない。
「来場者が会場で何を探し、何に反応したか」をリアルタイムデータとして利用する仕組みになっている。
RXは、このデータをAIによるおすすめにも利用している。
例えば来場登録時に回答した製品カテゴリーへの関心と、出展企業が登録した製品情報を照合し、来場者に適した企業を推薦する。
展示会関係者がRXのイベントを見る場合は、次の点を見ると変化が分かりやすい。
実際、2025年のISC WestではLead Managerを使って15万7,000件以上のリードが作成された。
IBTM WorldではRXのデジタルサービスによって11万5,000件以上のスキャンと、7万3,000件の事前商談が発生している。
日本でも同じ変化が進んでいる。
RX Japanは2022年からグローバル登録システム「Mercury」の導入を進め、それを基盤としてLead Managerを展開している。
来場者は事前登録し、QRコード付きバッジを利用する。出展企業はそのバッジを読み取ることで、正確な登録情報をリードとして取得できる。
したがって、Manufacturing World JapanやNEPCON JAPANなどを見る際にも、展示されている製造技術だけでなく、「主催者が来場者と出展企業の接点をどのようにデータ化しているか」を見ると、現在のRXの事業転換を理解しやすい。
Reed Exhibitionsだけが展示会業界の国際化やデジタル化を進めたわけではない。
Informa、Messe Frankfurt、Messe Düsseldorfなど多数の大規模主催者が存在し、デジタルマッチングやリード取得も業界全体で進んでいる。
一方、Reed ExhibitionsからRXへの変遷には、現在の展示会産業を理解するうえで重要ないくつかの変化が表れている。
Reed Exhibitionsは早い段階から、成功したイベントブランドや専門市場を複数地域へ展開してきた。
また、Miller Freeman Europe、Mack Brooks、ブラジルなどでのM&Aを通じて地域市場を取り込んだ。
これによって展示会主催会社は、一都市のイベント運営会社ではなく、企業の海外進出を支援する国際的なプラットフォームとしての性格を強めていった。
現在もRXのInternational Sales Groupなどを通じ、ある国の出展企業を別地域のRX展示会へ誘導するネットワークが利用されている。
2017年時点でもReed Exhibitionsの売上高の70%以上は出展企業からの参加料金だった。
現在もリアル展示会は事業の中心である。
しかし出展企業に対して提供する価値は、単なる床面積から、
へ広がっている。
これは展示会主催者の役割が、
「場所を販売する会社」
から、
「商談機会とその成果を提供する会社」
へ移りつつあることを示している。
コロナ禍ではオンラインイベントが急増した。
しかしRXは、その後リアル展示会を縮小してオンライン専業へ転換したわけではない。
2025年の売上高は11億8,600万ポンドまで回復しており、現在もリアルイベントが事業の中心にある。
一方、デジタル技術は展示会の代替ではなく、リアルイベントでの成果を高めるために使われている。
これは現在の展示会業界全体に見られる重要な方向性である。
オンラインかリアルか
という二者択一ではなく、
リアル展示会で得られる対面の商談機会を、データによってどこまで効率化・計測できるか
が競争軸になっている。
2026年時点のRXの取り組みを見る限り、今後は特に三つのテーマが重要になる。
RXはこれまでも来場者と出展企業のマッチングを行ってきたが、現在はAIを使ってその精度と即時性を高めようとしている。
2026年に展開が始まったRX NOWでは、来場者が会場内にいる間に、登録情報や関心カテゴリーなどを利用して関連企業・コンテンツを推薦する。
これが発展すると展示会は、
「自分で何百社ものブースを探す場所」
から、
「自分に必要な企業をシステムが提案する場所」
へ変化する可能性がある。
出展企業にとって展示会は、出展料、施工費、人件費、旅費など大きな投資を必要とする。
そのため「何件の商談や売上につながったか」を説明できることが以前より重要になっている。
RXがExhibitor Dashboard、Lead Manager、Colleqtなどを強化している背景にもこの課題がある。
今後は出展面積や来場者数だけではなく、
などが、展示会価値を判断する指標としてさらに重要になると考えられる。
デジタル化と並び、RXが現在重点的に進めているのがサステナビリティである。
RXはNet Zero Carbon Eventsイニシアチブの設立時からの参加企業で、2040年までにネットゼロを達成する方針を掲げている。
展示会では会場電力、参加者移動、出展ブース資材、廃棄物、飲食、物流など多くのCO2排出源が存在する。
RXでは、デジタルカタログ、再利用可能な展示資材、廃棄物削減、会場とのエネルギー改善などを進めている。
Colleqt QRで紙カタログやパンフレットをデジタル化する取り組みも、リード獲得機能だけでなく紙使用削減という側面を持つ。
Reed Exhibitionsの60年以上にわたる変遷を見ると、同社が変えてきたのは展示会のテーマだけではない。
1960年代には、
「企業を一つの会場へ集めること」
が事業だった。
その後、展示会ブランドを世界へ展開し、M&Aによって専門市場を増やし、数百のイベントを持つ国際ネットワークを形成した。
そして現在は、そのネットワークから生まれる参加者データを使って、
誰と誰を会わせるか
どの企業に関心があるか
どの商談を優先すべきか
出展によってどの程度成果が得られたか
まで扱うようになっている。
この流れを整理すると、
展示会企画
↓
専門展示会ブランド
↓
国際展開
↓
グローバルな業界コミュニティ
↓
来場者・出展企業データ
↓
デジタルマッチング
↓
AIによるリアルタイムのビジネスマッチング
という変化が見える。
その意味で、Reed ExhibitionsからRXへの社名変更は単なるブランド刷新ではない。
「展示会を開催すること」そのものを商品とする会社から、「展示会という巨大なリアルなネットワークをデータと技術によって商談へ変える会社」へ変化していることを象徴する出来事と見ることができる。
今後RXが主催する展示会を見る際には、展示ホールの規模や出展社数だけではなく、来場登録、AI推薦、商談予約、QRコード、リード取得、ROI分析がどのようにつながっているかを見ることが、同社の現在の競争力を理解するうえで重要になる。