Comexposium(コメクスポジウム)は現在、フランス・パリを本拠地に、BtoB展示会、一般消費者向けイベント、カンファレンス、One to One商談イベント、デジタルコンテンツなどを世界各地で展開するイベント企業である。
2026年現在、グループは25カ国で400を超えるプロフェッショナル・一般向けイベントを展開し、年間約4万8,000社の出展企業と約400万人の来場者をつないでいる。事業分野は食品、教育、ファッション、セキュリティ、リテール・デジタル、レジャー、ヘルスケア、自動車・交通などに広がっている。
代表的なブランドには、SIAL、Salon International de l’Agriculture、Wine Paris、SILMO、MILIPOL、NRF Retail’s Big Show Europe、Foire de Paris、Rétromobile、INTERMAT、ALL4PACKなどがある。
しかし、現在のComexposiumは単なる「展示会主催会社」ではない。
同社は現在、自らの役割を、イベント開催時だけでなく年間を通じてコミュニティをつなぐことに置いている。展示会に加え、One to One商談、BtoBマッチング、専門コンテンツ、データを活用したマーケティング、デジタルプラットフォームなどを組み合わせている。
その変遷を整理すると、
パリの見本市運営
↓
複数の展示会会社の統合
↓
専門展示会ブランドの大型ポートフォリオ化
↓
M&Aによる世界展開
↓
コロナ禍によるリアルイベント事業の危機
↓
One to One・デジタル・地域イベントへの多様化
↓
年間を通じて業界コミュニティをつなぐオムニチャネル企業
という流れが見えてくる。
現在のComexposiumを理解するうえで重要なのは、展示会の開催本数よりも、「特定業界の企業・バイヤー・専門家を集めるブランドを持ち、その関係を会期外にも広げていること」である。
Comexposiumという現在の企業が成立したのは2008年である。
ただし、同社が公式に示す事業の系譜は1904年まで遡る。
1900年のパリ万国博覧会の後、パリ商工会議所と業界団体が「Comité des Expositions de Paris」を設立し、1904年に最初のFoire de Parisを開催した。
当初はCarreau du Templeで開催され、その後、1923年に建設されたParis Porte de Versaillesの展示会場へ移っていった。
この時代の目的は、現在のデジタルマーケティングとは大きく異なる。
中心にあったのは、
という見本市本来の役割だった。
現在もComexposiumがFoire de Parisを運営していることは象徴的である。
同社の現在の事業には、100年以上前から続く「特定の商品や市場に関心を持つ人を、一つの場所へ集める」という考え方が残っている。
現在のComexposiumが正式に成立したのは2008年である。
Paris Île-de-France Chamber of Commerce and Industry(パリ・イル=ド=フランス地域圏商工会議所)が持つ展示会事業「Comexpo Paris」と、不動産グループUnibail-Rodamcoが持つ展示会事業「Exposium」が統合され、Comexposiumが誕生した。
この統合が重要なのは、会社名が変わったことではない。
それまで別々の企業で運営されていた複数の大規模展示会ブランドが、一つのグループへ集約されたことである。
Comexpo Paris側には農業、食品、建設などの専門展示会があり、Exposium側にも消費者向け・専門イベントのポートフォリオが存在した。
統合によってComexposiumは、
「一つの展示会を運営する会社」
ではなく、
「複数の産業分野に強い展示会ブランドを持つポートフォリオ企業」
として成長する基盤を得た。
現在のComexposiumが食品、ファッション、セキュリティ、リテール、教育、自動車など幅広い分野に展開している背景には、この統合がある。
Comexposiumの現在を理解するうえで重要なのがSIALである。
SIAL Parisは1964年に始まり、食品・飲料分野の国際展示会として発展してきた。
現在はパリだけでなく、カナダ、中国、インド、中東など、複数地域でSIALブランドのイベントが展開されている。
2026年にはベトナム・ホーチミン市でも最初のSIAL開催が予定されている。
これはComexposiumの国際化戦略を分かりやすく示している。
国際化とは、海外企業をフランスへ呼ぶことだけではない。
フランスで形成した展示会ブランド、出展企業ネットワーク、業界団体との関係、バイヤー基盤を、新しい市場へ展開する
ことへ変化している。
現在Comexposiumがアジア太平洋地域で展開するイベントにも、SIAL、VINEXPO、MILIPOL、SILMO、IMCASなど、他地域で確立したブランドの現地版が多い。
一方、現地企業や団体との提携も重視している。
つまりComexposiumの海外戦略は、単純な「フランスの展示会のコピー」ではなく、
グローバルブランド
+
現地パートナー
+
地域の産業ニーズ
を組み合わせるモデルへ発展している。
Comexposiumの国際化を大きく加速させた転換点が2015年である。
英国のプライベートエクイティ会社Charterhouse Capital PartnersがComexposiumへ出資し、Paris Île-de-France Chamber of Commerce and Industryと共同で成長戦略を進めた。
Charterhouseが保有した約3年半の間に、Comexposiumは16件の追加買収を行い、14の新しい展示会を立ち上げた。
その結果、新たに8カ国へ進出し、特にアジアの高成長市場への事業展開を大幅に拡大した。
年間売上高は約3億6,000万ユーロ規模まで成長した。
この時期に重要だったのは、Comexposiumが単に展示会の開催本数を増やしたことではない。
買収を通じて、
をまとめて取得したことである。
展示会企業のM&Aでは、施設や機械よりも「そのブランドを開催すれば誰が集まるか」という顧客ネットワーク自体が重要な資産となる。
現在Comexposiumが25カ国で事業を展開できる背景には、この時期に進められた国際M&Aが大きく影響している。
2019年、Charterhouse Capital PartnersはComexposiumの持分をCrédit Agricole Assurancesへ売却した。
現在Comexposiumは、歴史的株主であるParis Île-de-France Chamber of Commerce and Industryと、Crédit Agricole Assurancesによって共同保有されている。
この所有構造の変化は、Comexposiumの成長段階が変わったことも示している。
Charterhouse傘下では積極的なM&Aを通じた国際化が進められた。
その後は、すでに形成された国際ポートフォリオを活用しながら、既存ブランドの地域展開、新しいイベントフォーマット、デジタルサービスなどを強化する段階へ進んでいる。
同じ時期には事業構造そのものも再編された。
2020年にはVinexpo Holdingと共同で「Vinexposium」を設立し、ワイン・スピリッツ関連イベントを統合した。
Wine Paris & Vinexpo Parisをはじめ、酒類産業に特化した国際イベントポートフォリオを形成することで、個々の展示会ではなく業界全体を対象とするプラットフォームへ発展させた。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大は、Comexposiumにとって非常に大きな危機となった。
同社の主要事業は、多数の企業・来場者が会場へ集まるリアルイベントである。
世界各地で展示会開催が困難になり、フランスでもイベントの延期・中止が相次いだ。
Comexposiumは2020年9月、パンデミックによる事業への影響から会社を保護するため、フランスの裁判所へ複数の「procédure de sauvegarde(事業再建を目的とする保全手続き)」を申し立てた。
2021年10月には裁判所が再建計画を承認し、債務返済条件などが整理された。
この局面は、Comexposiumの歴史を理解するうえで省くべきではない。
コロナ禍以前の同社は、M&Aによって大型展示会ポートフォリオを拡大していた。
一方、リアルイベントが開催できなくなると、
「多数の有力展示会ブランドを持つこと」
だけでは収益を維持できないことが明確になった。
そこでComexposiumは組織を専門分野ごとに再編し、デジタルコンテンツ、地域イベント、ハイブリッド形式、One to One商談などを強化した。
この危機が、現在のオムニチャネル戦略を加速させる転換点になった。
コロナ禍後、Comexposiumは自社を単なるイベント主催者として位置づけなくなった。
現在の公式説明では、イベントに加えて、オムニチャネルの接点を使って「365 days a year」コミュニティをつなぐことを明確にしている。
現在の提供形態は大きく、
などへ広がっている。
Comexposium自身も、リアルイベントについて「最も強力な接点の一つ」と位置づけながら、その効果をデジタルで補完する考え方を採っている。
つまり、
オンラインかリアルか
ではなく、
リアルイベントを中心に、開催前・開催後もデジタルで関係を続ける
というモデルである。
現在のComexposiumを理解するうえで特に重要なのが「Comexposium One to One」である。
一般的な展示会では、多数の出展企業と来場者を一つの会場へ集める。
来場者は会場内を歩き、自分で商談先を探す。
One to One形式では考え方が異なる。
主催者が事前に参加企業と意思決定者のニーズを確認し、条件が合う企業同士の商談をあらかじめ設定する。
例えばLes Assises de la cybersécuritéでは、2025年に3,349人が参加し、約1万2,000件のOne to Oneミーティングが設定された。
One to One IA x Expérience Clientでは、2025年に460人の意思決定者、113社のパートナーが参加し、4,600件のビジネス交流が行われた。
このモデルで重視されるのは、
「何万人来たか」
ではなく、
「購買権限や具体的なプロジェクトを持つ人と何件会えたか」
である。
これは展示会業界の価値基準が、単純な集客規模から商談成果へ広がっていることを示している。
Comexposiumは大型展示会とOne to Oneイベントの両方を持つことで、市場によって異なる「人のつなぎ方」を使い分けている。
デジタル化のもう一つの例が、BtoBマーケットプレイスとの連携である。
Comexposiumとファッションイベント企業WSNは2024年、欧州のBtoB卸売マーケットプレイスAnkorstoreとの提携を発表した。
対象となる食品やファッション関連の展示会では、出展企業と小売事業者が展示会終了後もオンラインで売買できる仕組みを提供している。
Ankorstoreには多数のブランドと商品が掲載されており、展示会で見つけた商品を会期終了後も仕入れにつなげられる。
これは展示会の構造を、
展示会で商品を見る
↓
名刺を交換する
↓
後日個別に商談する
という流れから、
展示会で商品を発見する
↓
デジタルで商品を確認する
↓
オンラインでも継続して仕入れる
という流れへ広げる試みである。
Comexposiumにとってデジタルプラットフォームは、リアルイベントを置き換えるためのものではなく、そこで生まれた取引機会を会期外まで延長する手段になっている。
近年のComexposiumの国際戦略を象徴するのが、米国National Retail Federation(NRF)との提携である。
2024年、ComexposiumとNRFはシンガポールで「NRF Retail’s Big Show Asia Pacific」を立ち上げた。
初回には6,000人以上の業界関係者と300社のテクノロジー企業が参加した。
さらに2025年には、Comexposiumが従来運営してきたParis Retail Weekを発展させる形で「NRF Retail’s Big Show Europe」をパリで開始した。
初回は58カ国から1万2,500人以上、500社の出展企業を集めた。
この取り組みは、Comexposiumの海外展開が新しい段階へ進んでいることを示している。
従来はSIALなど、自社が保有するブランドを新しい国へ展開するモデルが中心だった。
現在は、
Comexposiumの地域運営力・顧客基盤
と、
海外業界団体が持つ国際ブランド・専門性
を組み合わせて新しいイベントをつくるモデルも強化している。
これは海外M&Aだけに依存しない国際成長戦略として重要である。
現在のComexposiumには、食品、ファッション、教育、セキュリティ、自動車、リテール、ヘルスケアなど、一見すると関連の薄いイベントが多数存在する。
しかし、歴史をたどると共通する資産がある。
それは、
である。
1904年のFoire de Parisでは、商品を展示して人を集めることが中心だった。
2008年の統合によって多数のイベントブランドを一つのグループで管理できるようになった。
2015年以降のM&Aによって、そのモデルを海外へ拡張した。
コロナ禍によってリアルイベントだけに依存するリスクが顕在化した。
その結果、現在は、
展示会
+
One to One商談
+
専門コンテンツ
+
データ・デジタルサービス
+
オンライン取引
を組み合わせる構造へ変化している。
Comexposiumが現在持つ競争力は、特定の会場設備や一つのITシステムによって形成されたものではない。
「特定の産業で、誰を集めれば価値のある市場になるのか」を長年蓄積してきたことが基盤となっている。
Comexposiumはメーカーではないため、Comexposium自身のブースで製品を見るより、同社が運営する展示会の設計を見る方が現在の事業を理解しやすい。
SIALを見る際には、単に食品企業が集まる展示会として見るだけでは不十分である。
Comexposiumは同ブランドを複数地域へ展開し、食品メーカー、輸入業者、小売、外食、バイヤーを国際的につないでいる。
2026年のベトナム進出も、既存ブランドを成長市場へ展開する現在の国際戦略を示している。
リテール分野ではAI、データ、オムニチャネル、決済、物流、店舗テクノロジーなどを扱うNRF Retail’s Big ShowをNRFと共同展開している。
2025年の欧州版では、展示会だけでなく100を超えるカンファレンス、店舗視察、スタートアップ展示、Innovation Showcaseなどを組み合わせた。
これは現在のComexposiumが、展示スペースだけではなく、
製品発見
+
専門知識
+
ネットワーキング
+
ビジネスマッチング
を一つの商品としていることを示している。
サイバーセキュリティ分野のLes Assisesでは、大規模な展示ホールよりも、意思決定者とソリューション企業のOne to One商談が重要な構成要素になっている。
展示会関係者にとっては、来場者数だけでなく、商談件数や参加者の役職・購買権限を見ることで、Comexposiumの現在の事業思想が分かりやすい。
Comexposiumは日本でもAd:tech Tokyo、Brand Summit、iMediaなどを展開している。
2026年9月には福岡でBrand Summit Autumn、10月には東京でAd:tech Tokyoが予定されている。
また、沖縄、宮崎などでもiMedia系イベントを運営している。
これは大型展示場で数万人を集めるモデルだけではなく、特定のマーケティング意思決定者を地方都市やリゾート型会場へ集め、深い交流を促すフォーマットも事業化していることを示している。
Comexposiumだけが国際展示会業界の変化を生み出したわけではない。
Informa、RX、Messe Frankfurt、Clarion Eventsなど、多くの大手主催者が同じように国際化、デジタル化、コミュニティ化を進めている。
一方、Comexposiumの変遷からは、現在の展示会業界における重要な変化がよく見える。
SIAL、SILMO、MILIPOLなどは一つの開催地だけの展示会ではなく、複数国で展開できるブランドになっている。
展示会企業の国際競争力は、単に海外事務所を持つことではなく、
「新しい国へ持っていっても企業・バイヤーを集められるブランドを持つこと」
に変化している。
One to One事業では、参加者をむやみに増やすより、適切な意思決定者と企業を事前に組み合わせることが重要になる。
Les Assisesなどで数千から1万件規模の事前商談を設定していることは、展示会主催者が単なる集客会社から「商談を設計する会社」へ変化している一例である。
Comexposiumは現在、BtoBマッチング、ウェビナー、専門コンテンツ、データ、オンラインマーケットプレイスとの連携などを展開している。
その結果、イベント事業者の役割は、
「数日間のイベントを開催する」
ことから、
「年間を通じて専門コミュニティと接触する」
方向へ広がっている。
2026年時点の事業方針を見る限り、今後のComexposiumでは特に四つのテーマが重要になる。
2026年、Comexposiumはベトナム、中東、デンマークなど戦略地域の経営体制を強化している。
2025年のImpact Reportでも、ベトナムとインドをアジア太平洋地域の高い成長可能性を持つ市場として挙げている。
SIAL Vietnamをはじめ、今後どの既存ブランドが新しい市場へ展開されるかを見ると、Comexposiumが成長性を評価している地域を読み取りやすい。
現在Comexposiumは、大規模展示会と少人数の商談型イベントを別のフォーマットとして使い分けている。
今後は大型展示会の中にも、事前マッチングや商談予約などOne to One型の考え方がさらに組み込まれる可能性がある。
展示会の価値を「人の多さ」だけではなく「出展企業にとって有効な商談が何件生まれたか」で説明できるかが重要になる。
Comexposiumは現在、qualified dataとtargeted contentを活用したオムニチャネルサービスを明確に事業としている。
今後注目すべきなのは、
といったデータを、出展企業のマーケティングへどこまで活用できるかである。
現時点では、独自のAI製品そのものを主力としていると捉えるより、データ、マッチング、コンテンツを組み合わせて接点の精度を上げる方向が中心と見るのが適切である。
Comexposiumは「ALL INvolved」と呼ぶ責任ある事業運営戦略を進め、2025年にはComexposium SASとOne to Oneの対象範囲でPositive CompanyのCSR認証を取得した。
大型展示会では、移動、会場電力、施工資材、物流、廃棄物など多くの環境負荷が発生する。
今後は、イベント内容としてサステナビリティを扱うだけではなく、展示会そのものの施工、エネルギー、移動、廃棄物をどこまで改善できるかが主催者の競争力にも関わる。
Comexposiumの変遷を振り返ると、一貫しているのは「展示会という形式」そのものではない。
1904年のFoire de Parisでは、商品を展示して人を集めることが中心だった。
2008年には多数の展示会ブランドを統合する企業が生まれた。
2015年以降はM&Aを使って世界へ展開した。
コロナ禍ではリアルイベント依存のリスクに直面した。
そして現在は、
展示会
+
One to One商談
+
専門コンテンツ
+
データ
+
オンライン取引
+
国際パートナーシップ
によって専門コミュニティを年間を通じて運営する会社へ変化している。
その流れを整理すると、
見本市
↓
展示会ブランド
↓
国際ポートフォリオ
↓
専門業界コミュニティ
↓
商談マッチング
↓
365日のオムニチャネル接点
という変化が見える。
現在Comexposiumのイベントを見る際には、展示ホールの大きさや来場者数だけを見るのでは十分ではない。
「どの専門コミュニティを持ち、誰と誰をどのように会わせ、その関係を会期後までどう継続させているか」
を見ることで、Foire de Parisから現在のComexposiumへ続く事業変化と、現在の展示会産業が向かっている方向を理解しやすくなる。